いちかわはんまー19 (まどか☆マギカ VS AVENGERS )


まどか☆マギカVSアベンジャーズ サイドストーリー
ビフォアー・ザ・グンマーエンパイア 


プロローグ:魔法少女「ロキ」

 この世界とは違う神の住まう国アスガルド、その支配ををもくろんだソーの義弟ロキ。しかしその野望は打ち砕かれ、敗れたロキは別の世界に追放されることになった。
 異世界に飛ばされてなお、兄への恨みを忘れず復讐に燃えるロキ。そこに白い小動物がロキの前に現れた。自らを[キュゥべえ]と名乗る小動物はこう告げた。
「僕と契約を交わしてくれるのなら、どんな願いでも一つだけ叶えてあげるよ。だから、僕と契約して魔法少女になってよ!」

「失せろ。」

 ロキが指を鳴らした次の瞬間、赤い目をした小動物は消し炭になる。やれやれの表情を浮かべたロキが立ち去ろうとするその先に消し炭にしたはずのキュゥべえが。
「代わりはいくらでもいるけど無意味に潰されるのは困るんだよね、もったいないじゃないか。」
 そう言うと、キュゥべえは、ロキを通り抜け、「さきほどまでキュゥべえだった」消し炭を食らいはじめた。唖然とするロキを尻目に「きゅっぷい」とゲップをするキュゥべえ。
「そもそも私は男だ。男が少女になれるわけがない。」
「でも、僕の姿が見えるという事は君には魔法少女としての素質があるんだよ。それに、君には叶えてほしい願い事があるじゃないか?」
 ロキはアスガルド随一の弁が立つ男として知られていた。そんな彼をいともたやすくあしらい、そして「契約」に持っていこうとするキュゥべえ。ふと、アスガルドの書庫室で見つけた、インキュベーターに関する書物のことを思い出した。
 徐々に目減りしていく宇宙全体の活力を取り戻し、そして宇宙規模での文明を発展させるために活動する「インキュベーター」と呼ばれる生物がいる。彼らは長い時間をかけて、感情のゆらぎをエネルギーに変換するシステムを生み出したが、生憎、彼らの種族は「感情」というものを持ち合わせていない。
 そこで、別の知的生命体と接触し、「魔法少女」を生み出すことで、エネルギーの安定供給を図っているのだ。
 インキュベーターと契約し魔法少女になることは、たった一つの願いを叶える代わりにその魂を差し出さすことと同義だ。魔法少女になったものは、自身の魂を結晶化した「ソウルジェム」の力で魔法を使うことが出来る。
 しかし魔力は無限ではない。魔法を使うたびにソウルジェムは濁り、完全に濁りきると魔法が一切使えなくなる。それを回復させるには結界に潜む魔女を倒すと手に入る「グリーフシード」で穢れを移し替えるしかない。
 魔女とは、かつて魔法少女だったものがすべてに絶望し、変容したもの。かつての同属を食らい続けないと、やがて自分も魔女になる運命を背負うことになるのだ。何たる皮肉。何たる非情。
 そして、魔法少女から魔女に変わる瞬間(希望と絶望の相転移)に発せられる膨大なエネルギーの回収がインキュベーターの真の目的なのである。
「キュゥべえ、貴様は私に魔法少女の素質があるといったな。それはアスガルドから追放され、生き恥をさらす私が女々しい男だと皮肉っているのか?」
「君が異世界から来たのか、そして君自身が女々しいかは僕には分からないよ。でも、君は男性でありながら魔法少女としての素養を秘めている。これだけは確かだ。」
「ならば、わが兄ソーに復讐をするため、絶大な力を私に与えよ。さあ、願いを叶えよ!インキュベーター!!」
「契約は成立だね。」

 インキュベーターは二本の触手をロキの胸に当てると、そこから巨大な紫色のソウルジェムが現れた。周りに衝撃が走り、浮かび上がった宝石を中心に光の筋が絡み合い、やがて一本の魔法の杖となった。
「君の願いはエントロピーを凌駕した。受け入れるといい、これが君の運命だ。」
 杖を受け取るロキは不敵な笑いを浮かべる。

「この力があれば…兄上、待っているがよい。フゥゥハハハハハァ!」

 空間に裂け目が生じ、ロキはその中に吸い込まれていった。もちろん、自分を追放した義兄、ソーに復讐(Revenge)するために。

「やれやれ、せっかちだなあ、君は。」

 キュゥべえもあとを追うために裂け目に消えていく。





エピソード1:ミタキハラの廃船
 

「マミさんあぶない!」
 迫り来るお菓子の魔女「シャルロッテ」、恵方巻のように長い体、そして、全てを噛み砕く鋭利な牙が魔力を使い果たした魔法少女「巴マミ」に襲い掛かる。
 絶体絶命のそのとき、魔女は巨大な緑の物体に横っ面をはたかれる。吹き飛ぶ魔女。緑の物体は人…いや巨人というべきか。

「あれが廃船(ハルク)…?」

 物理、そして物理、無慈悲な物理攻撃が魔女に裁きを下す。筋肉モリモリマッチョキャラはこの世界では噛ませ犬や、ましては道化でもない。魔女の上あごと下あごに手をかけ、そこからビーフジャーキーのように二つに引きちぎる。断末魔をあげる魔女。勝利の雄たけびを上げるハルク。

…魔女の結界は解け、残ったのは、魔女の亡骸から残された嘆きの種「グリーフシード」緑の巨人はおらず、代わりに痩せた貧相な風体の男が半裸で横たわっていた。
「バナー博士、初めて会ったときと同じ格好だね。ウェヒヒ」
 申し訳なさそうに頭を掻くブルース・バナー博士にピンク色のツインテールの少女が微笑む。
「すまない、連続更新記録がここで途絶えてしまったよ、まどか。」
 まどかと呼ばれる少女は博士の肩を貸し、身体を起こしてくれた。
「はじめて会った時と同じ…か。」

 2週間前、初めてまどかに会ったときも、バナーはこの姿だった。上空から緑の巨人がミタキハラシティに落下。そこがまどかの近所であったのが彼女が出会うきっかけとなった。物理学を専攻するバナーは、なぜかまどかの母、鹿目絢子と意気投合。豪胆な性格の彼女はバナーの滞在を了承し。現在にいたる。

「先ほどはありがとうございました。もし、貴方が助けてくれなかったら…」
 変身を解いた巴マミが近づく。
「見たかいマミ、私の病気だ。私は怒りを抑えられなくなると全てを破壊する緑の巨人に変身する。これがハルクだ。」
 バナーは、瓦礫の中からヒビの入った自分のメガネを拾い、かけなおしてから話を続ける。
「君たち、魔法少女や、さきほどの魔女には微量のガンマ線が検出されている。今回、私がミタキハラにやってきたのは君たち魔法少女のもつソウルジェムシステムで、私の病気が治療できる方法を見つけるためなんだ。」
「治療の方法は見つかりそうなんですか?」
「といっても、科学者の勘だから暗中模索、五里霧中といったところでね。幸い、結界に持ち込んでいたセンサーはちゃんとログを残してくれていたみたいだから、あとでじっくりデータを解析してみるよ。」
「私たちには何も出来ないですけれど、病気、なおるといいですね。」
 マミの言葉にバナーは笑顔とサムズアップでこたえる。
「バナー博士、本当に一人だけでだいじょうですか?」
「ご覧の通り、また服がボロボロになってしまったからね。シマムラにでもいって新しい服を買いなおすことにするよ。それに…」
「それに?」
「メガネを新調しないといけない。科学者としてそこは譲れない。」
 吹き出すまどかとマミをよそに、博士はその場を去った。
「ああ。すぐ戻る。」

 夕方、誰もいない公園で博士は声を上げる。
「暁美…ほむら、だったかな、そこにいるんだろ?」
 間髪いれずに長い黒髪の魔法少女が姿を現す。左腕の銀色の円盤が夕日に反射し、キラキラと輝く。

「ニンジャの末裔はミタキハラにいたんだな。動きで判る。」
「ブルース・バナー。もし貴方がいなければ、あのタイミングで巴マミは死んでいた。彼女を救ってくれたことで不安要素が減ったことには感謝するわ。でも…」
「貴方は、これ以上鹿目まどかに近づくべきじゃない。」
「そうツンツンしなさんな。かわいいお顔が台無しだぜ。」
 無言でデザートイーグルを構えるほむら。バナーは臆せず話を続ける。
「こっちもアメリカ軍に追われている身なんで、頃合をみて出て行くさ。まどかにもこれ以上迷惑をかけられないからな。」
「ところで、まどかたちと一緒にいたときになにか白いものがチラチラしていたが…。
あれがインキュベーターなのか?」
「!?」
「図星か。キュービーだかなんだか言ってたのはそういうことか。そのインキュベーターには適性のある者にしか見えないという話だ。こちらもぼんやりと感じられないんだがどんな生き物なのか想像が付かないな。かわいい動物みたいなのか?」
「インキュベーター…キュゥべえは、たった一つの希望と叶えるために魂を要求する…最低最悪の悪魔よ。」
「でも、ほむらもあいつと契約して魔法少女になったんだろ?まあいい。ところで、まどかもそのキュウなんとかと親しげに話していたということは、まどかも魔法少女の素質が…」
 ほむらはデザートイーグルをバナー博士に突きつける。
「まどかは、絶対に魔法少女にはさせない!」
 バナー博士の血圧が一気に上がり、彼の腕につけているアラームがけたたましく鳴り響く。高鳴る鼓動を抑えながらバナーはほむらに語りかける。
「ほむら。銃をおろせ。もう一人の[私]は、今のお前より融通が利かない。」
「それに…」
 バナーが目配せした先には、武装したアメリカ軍の特殊部隊が。いや、この公園全体が、特殊部隊に包囲されていたというべきか。重武装した20名近くの屈強な男たちがバナーとほむらを囲み、徐々に包囲網を狭めていく。
「お迎えが来たようね。戻らないの?」
「病気の治療は私のライフワークだ。誰にも邪魔はさせない。」
「冷静ね。」
「違うな。私は常に怒っている。世の中のあらゆることに。」

 公園の真ん中に緑の巨人が解き放たれた。圧倒的かつ無慈悲な暴力。市民の憩いの場が地獄に変わる決定的瞬間であった。




エピソード2:「この胸に輝くもの」

「ちょっとアンタ。なんで私のお気に入りのところにいるのさ?
とっととどきなさいよ!」
「!?」
 ドーナツチェーン店のカンバンにある巨大ドーナツの「穴」でドーナツをほおばる口ひげをはやした男にドーナツの袋を脇に抱えた魔法少女、佐倉杏子が言い放った言葉である。虚を突かれた男はバランスを崩し、後ろに転げ落ちる。
「あはははは、ばっかで〜。」
 大声で笑う杏子から白い八重歯がのぞく。真紅と金の鎧をまとった男は不機嫌そうに起き上がり杏子をにらみつける。

「おじさんがスターク・インダストリーズのトニー・スターク社長なんだ〜。」
「頼むからおじさんはやめてくれよ。…トニーでいい。」
「それよりも、こんな時間に街をぶらつくのは感心しないな。学校は?」
 今度は杏子が不機嫌になる。
「あたしは学校なんて行く必要なんかない。トニーには関係ないだろ。それよりも、スターク・インダストリーズの社長がこんなところでサボっていていいのかな〜?」
「休憩中だ。君が邪魔をするまではな。今日も私はスターク・インダストリーズの日本支社をここミタキハラに展開するために午前から会議やら、視察やらで大忙しだったんだ。ブラブラしている君とはちがうんだ。」
「へいへい、それはお悪うござんしたね。世界的大企業のシャショーさんはお忙しいですもんね〜。あたしたちには全然縁のないおはなしですけどね〜。」
 杏子も嫌味たっぷりに返しを入れる。無視して残りのドーナツをほおばるトニー。

 しばし沈黙する2人。それぞれ持ち寄ったドーナツも全て食べ終え、先に切り出したのはトニーのほうであった。
「私はこれで帰るが、君も早く家にもどりたまえ。家族だって心配しているだろ?」
 返事がなく、やれやれといった表情のトニー。しかし…
「あたしには…戻る家や家族なんて、もうないんだよ!」
 トニーは困惑した。家庭環境が複雑だろうということはあらかた予想できたが家族そのものがいないという杏子の言葉にうろたえざるを得なかった。
 杏子の父は教会の神父で、母と妹と、質素ながらもつつましく暮らしていたという。しかし、「ある事」をきっかけに父は酒におぼれ、精神に異常をきたし、ついには母と妹を道連れに無理心中を図った。実家の教会も荒れ果て、それ以来杏子は誰にも頼らず、放浪の生活を続けているという。

「そうさ、だからほっといてくれ、あんたのような裕福な人間にあたしの気持ちがわかるかっての!」
「実は私も両親を事故で亡くしている。20歳のころだ。」
「え?」
「両親の遺産と会社を引き継いだ私は、まずは会社の立て直しに躍起になった。スターク・インダストリーズは兵器の開発、販売を行う会社だが、エンジニアとしての私のアイデアを次々に形にしてきた。主な取引先はアメリカ軍ということもあり、スターク・インダストリーズは国内だけでなく、世界でも1位2位を争う大企業に発展した。」
「アメリカってさ、いっつも戦争してるもんね。でもさトニーの会社って、今は武器作るのやめちゃったんだよね?」
「ああ、理由はこれだ…。」
 トニーは自分の胸に白く輝く発光体を指差した。

「ソウルジェム?」
「アークリアクターだ。このアイアンマンスーツのエネルギー源であり、私の命そのものだ。」
 トニーは、負傷した際に体内に残ったままのミサイルの破片が心臓に向かっていること。到達すれば確実に命を落とすということ。それを防ぐためにはリアクターの力が必要不可欠ということを杏子に伝えた。
「使用されたミサイルは横流しされたわが社のミサイルだった。皮肉だろ?自分たちの作った兵器が自らの命を脅かしているこの事実。いや、私だけではない。これは人類全体の問題だ。」
「私はこのアークリアクターの技術でエネルギー問題を解決し、地球から兵器を…いや戦争そのものを根絶する。」

 今度は杏子がやれやれな表情を見せる。
「ハアン?それでスーパーヒーロー気取りなんてとんだ甘チャンだね!」
 その瞬間、杏子は紅蓮の炎に包まれ、魔法少女の姿に変貌する。身の丈以上の長さの槍をトニーに突きつけ、杏子はこう言い放つ。
「私はね、アンタみたいな正義とかなんとかタイプが大っきらいなんだよ!!」
 トニーはその光景に唖然とした。いや、正確には魔法少女となった杏子の胸に輝く、リアクターとは違う輝きを放つ「ソウルジジェム」に。
 我に帰るトニー、そして一言。
「口の利き方がなっていないレディには、今から礼儀作法のレッスンだ。」
 ヘルメットを装着したアイアンマンの眼光がきらめく。

 ドーナツ屋の屋上で剣戟の音が響き渡る。トニーの話を聞いてか、杏子はトニーの胸…リアクターを目掛けてラッシュをかけてくる。正確な突きをすんでの所でいなすが、数々の戦いで場慣れしている杏子の動きにトニーは防戦一方であった。アイアンマンは飛行が出来るが、杏子はその身体能力で、そのハンデを感じさせない動きを見せる。
「本当の私をみつけてごらん、オッサン?」
 幻影を生み出し、相手をかく乱する「ロッソファンタズマ」3人に増えた杏子がトニーに襲い掛かる。しかし、各種センサーが装備されていたアイアンマンスーツには無駄な攻撃だった。カメラを熱源カメラに切り替え、杏子の虚像を1体ずつ手のひらから発せられる「リパルサーレイ」で消滅させる。
「1つ、2つ、これが本物だ!」
 3体目の杏子にリパルサーを当てるが、これも虚像であった。

「なに!」
「分身が2体までだと思った?」

 上空より急降下する本物の杏子。襲い掛かる槍を跳ね除けようとするが、槍は多節棍に姿を変え、トニーの体にまとわり付く。
「終わりだよ、オッサン!」
 多節棍に絡めとられ転倒したトニーにまたがり、絡まった棍から槍の穂先を引きちぎる杏子。そしてトニーの命といえるリアクターに手をかけようとするその時…
「チェックメイトだ。」
 トニーの手甲から放たれるレーザーサイトが杏子の胸に輝くソウルジェムを赤く照らす。
「ちぃ!!」

「私にリアクターがあるように、ソウルジェムは君たち魔法少女にとって命そのものだ。至近距離ならレーザーで確実に破壊できる。今日のレッスンはここまでだ。」

 アイアンマンMk.Y(6)の最大最強の武器、レーザーカッター(ターン・アンド・バーン式レーザー装置)手甲から放たれる光刃は、1度しか使用できないものの、かつて自律メカ兵器、ドローンの集団を一瞬にて葬った、奥の手といえる武器である。そして、「ソウルジェム」という言葉…すなわち魔法少女について、その弱点も含め「知っている」という事実は、杏子に武器を下ろさせるに十分な説得力を持っていた。観念したのか、杏子は武器を投げ捨て、仰向けに寝転んだ。

「チクショウ!勝手にしやがれ!!」


「バナー博士??」
 トニーは杏子に、ソウルジェムを解析して自分の「病気」を治療するため放浪中のバナー博士について解説した。
「…とまあ、博士の話では魔法少女や魔女が魔法を使うときに微量のガンマ線が検出されていてそれらの制御にソウルジェムが重要な役割を担っているということだ。ソウルジェムを解析すれば博士の病気治療の手がかりが得られると言っていたが…」
「私はあんあたたち科学者のモルモットになるつもりなんかないよ。」
「だろうなぁ。で、物は相談なんだが…私と一緒に[仕事]をしないか?今、この地球に厄介なお客さんがやってきて、彼らを丁重にお見送りする簡単なお仕事だ。君にうってつけだろ?」
「報酬は?」
「君には帰る所がないようだから、衣食住は最低限保障しよう。後は要相談だ。」
「仕方ねえなあ…こうなっちゃうと断れないじゃんか。いいよ、どうすればいいんだい?」
 トニーは杏子に名刺を手渡した。
「ここの住所に行けばいいのかい?」
「ああ、ミタキハラで一番目立つビルだ。あとはスタッフが対応してくれる。私は、この後もう一件打ち合わせがあるんでね。また会おう。」
 うなずく杏子。トニーはヘルメットをかぶり再び飛び上がる。

「トニー。やっぱあんたは甘いよ。正義だのなんだのって…そんなの何の得にもならないよ。」
「ああ、それだけで割り切れないことはいくらでもある。それに私よりも、もっとすごいお人よしがいるぞ。今から70年前、第二次世界大戦中だ。そいつはもともと虚弱体質だったんだが、祖国を守るために超人兵士計画の実験体として志願。見事超人になった。」「しかも、祖国を守るために、ナチスの爆撃機ごと北極海に突っ込んでこの前まで氷漬けになっていた。」
「死んじゃったの?」
「いや、あいつは再び解凍されて、「さっきまで敵だった」ドイツの人々を守るためにひと暴れしていたところだ。おかしいだろ?かつての敵国を今度は守るためにドイツに乗り込んでいったんだから。」
「あはははは!そういうお人よしは魔法少女の中にもいるよ。そいつ、好きな男のために魔法少女になって、ミタキハラの平和をバンバン守りまくっちゃいますからね〜なんてドヤ顔きめてやんの。たいした実力もないのにしゃしゃり出て、同業者として迷惑なんだよね。」「しかも、そいつ、その男にキスどころか、告白もしていないんだよ。笑っちゃうよね!」
「君の知り合いの残念な魔法少女も実に興味深い。ぜひとも今度紹介してくれよ。」
「トニーの知り合いの氷漬けキャプテンも紹介してよ。どんな顔しているのか見てみたい。」
「ああ、いいとも。青っぽい頭巾をかぶって古臭いコスチュームをつけてるからすぐにわかるさ。」
「こっちも青い髪の毛に青い服。ヘソにソウルジェムがついてるよ。」
「ぶぶっ…。」
「ハハハハハハ」」
 ドーナツ屋の屋上に笑い声がこだまする。

 上空。次の打ち合わせ会場に向かうトニーに連絡が入る。
「ああ、ミタキハラの公園での謎の爆発事故だが…。どうやら事故ではなさそうだ。見てくれ。見覚えのある緑の巨体だ。バナー博士もここに来ていたか。そして、魔法少女の一人に接触した。お茶とお菓子を出して引き止めといてくれ。」
「…判っている。無理はしないさ。すぐに戻る。愛しているよ。」
 新たな緊張を胸に、真紅の鎧をまとった男は虚空の夜空を舞う。暗雲の立ち込める夜空は激しい戦いを予言しているかのようであった。




エピソード3:「二つの盾、二人の護り手」

 魔法少女、暁美ほむらは時間遡行者である。彼女はキュゥべえ…インキュベーターと契約する際、彼女「鹿目まどかの平穏」を願った。彼女にとって、まどかはかけがえのない友人。その幸せにほむらは魂を「対価」として支払った。
 しかし、それは終わることのない戦いのはじまりであった。たった一つの正解を導き出すために、ほむらは何度もまどかと出会った3月16日に時間を巻き戻す。その間、ほむらは別の時間軸で数え切れないほどの死を目の当たりにした。あまたの出会いと別れ、そして、これまで使ってきたおびただしい武器や弾薬が、病弱だった彼女を一人の「戦士」に変えていく。
 「まどかの平穏」という望みをかなえるためには、まどかをキュゥべえと契約させず、1ヵ月後にミタキハラにやって来る最恐の魔女「ワルプルギスの夜」を自分ひとりで倒さないとならない。彼女は何度となく魔女に挑み、敗れ、そして時間を巻き戻した。
 しかし、今回はこれまでの統計とまったく違う。ほむらは内心あせっていた。なんなんだ、あのハルクとかいう緑の巨人は?そして、どうして自分は「空飛ぶ空母」にいるのかと??

  国際平和組織S.H.I.E.L.D.の所有する空飛ぶ空母「ヘリキャリア」ありていに言うと、空母にヘリコプターのような羽がついた荒唐無稽な乗り物である。ほむらがこの空母に乗るきっかけになったのは、同組織の長官、ニック・フューリーである。黒いコートに褐色の肌にスキンヘッド。そして左目にアイパッチ。ともすれば悪役とも取られない異様な風貌の男と出会ったのは、まどかとキュゥべえが出会ってしまった直後のことであった。
 河川敷。後ろにはたくさんの風車、そして工場。黒尽くめの男はそこにいた。
「話は終わりよ。ニック・フューリー。そもそも貴方たちのようなよそ者が口を出す権利はないはずよ。魔女は…ワルプルギスの夜は私一人で倒す。」
 それから1ヵ月後、再び現れたワルプルギスに勝てなかったほむらは、再び時間を遡行する。しかし、ニックは再びほむらの前に姿を現した。それだけではない。
「暁美ほむら。君もうすうす気づいているのではないかな?」
「アベンジャーズには入らないと言ったはずよ。」
「君がわが国の武器を持ち出してあのワルプルギスの夜を倒そうとするが、残念ながらいまだに倒せていない。それに、時間を止めて基地にお邪魔するのはいささか非効率ではないかな?」
「それなら貴方はS.H.I.E.L.D.の武器を私に提供してくれるのかしら。」
「もちろん。君が望むなら。」
「貴方の望みは何?」
「外の世界の脅威に対抗するために力が欲しい。」
「戦う相手は悪の枢軸かしら?」
「別次元の勢力といってもいい。」
「望むのはそれだけ?」
「敵はソウルジェムの力を持っている。われわれもソウルジェムについてもっと深く知らなくてはならない。君のジェムを少し調べさせて欲しい。」
「もし断ったら?」
「君が大事なものを守るために魔女を倒しても、別の勢力にに平穏が奪われてしまったら意味がない。君にとっても損な話だ。」
「敵は魔法少女なの?」
「そうともいえるし、そうでないともいえる。」
「貴方も時を渡る者なの?」
「いいや。若作りとは言われるがね。」
「少し考えさせて。」
「君はもう十分に考えたはずだ。その上で君は迷っている。今の流れが君の考えている流れと違うことに君はもう気づいている。それを確かめ、変えるには行動を起こすしかない。」
「アベンジャーズに入れと言うのね。」
「そうだ。」

 しぶしぶ、アベンジャーズに入ることになった暁美ほむら。出撃の命令が来るまで待機せよとの事だったが、ミタキハラを離れることに不安を隠せなかった。その間にまどかはキュゥべえと契約してしまっているかもしれない。しかし、今回は新しい可能性に賭けてみた。これが吉とでるか、はたまた…。
 ヘリキャリアの格納庫内の手すりにもたれかかり、うつろな表情のほむら。しばらくすると、星条旗を模した青いコスチュームに身を包んだ青年がほむらに近づいてきた。
「となり、いいかな?」
「ええ。かまわないわ。」
 青年の持ってきたホットコーヒーを飲みながら作業員の仕事を眺める二人。
「君がニックがスカウトした…。」
「暁美ほむらよ。」
「はじめまして、ほむら。私はスティーブ・ロジャース。このアベンジャーズのメンバーの一人だ。」
「キャプテン・アメリカね?」
「みんなにはそういわれている。」
「ほむらは、どうしてここに?」
「契約よ。」
「魔女がらみの?」

「ニック・フューリーは私達、魔法少女や魔女の知識や技術を求めている。そして、私は魔女を倒すための武器を求めている。2人の利害は一致した。それだけのことよ。」
 ここ何日の間は、ほむら、いや彼女のソウルジェムがS.H.I.E.L.D.の科学チームに検査され、ソウルジェムの組成。および活動時の化学変化など、あらゆる見地から研究が進められた。ほむら自身とも言えるソウルジェムを調べられるのは本意ではなかったが、彼女にはやらなければいけない理由があった。そしてこの研究により、適性者以外では目視できなかった魔女の可視化が実用段階までにこぎつけられた。
「私に会うまではS.H.I.E.L.D.はグリーフシードを使って研究を行っていたみたいね。しかし「抜け殻」であるグリーフシードでは不十分だった。」
「そこで、ニックは君に接触したわけか。」
「そういうことになるわね。」
「それで、貴方がここにいるのは国威高揚のためかしら。キャプテンアメリカ?」
「スティーブでいい。…いや。これは私の意志だ。国のためではない。」

 スティーブは話を続ける。
「こう見えても私は第二次大戦前の生まれだ。当時の私は虚弱体質で、軍に志願しても身体検査でいつも落とされていた。しかし、とあるプロジェクト…超人兵士計画の実験体となることで、今の体を手に入れたんだ。残念ながら、私が最初で最後の超人兵士になってしまったが。」
「その後、私のチームはナチスドイツの大量殺戮兵器の破壊のため、ドイツへ乗り出した。兵器を満載した爆撃機での戦いの末、阻止は出来たが、そのまま北極海に墜落。約70年、氷の中で仮死状態になっていた…らしい。」
「まるで浦島太郎ね。」
「ウラシマ?」
「タイムスリップした漁師の童話よ。太郎は最後に玉手箱を開けて老人になってしまったけれど、スティーブは箱をまだ開けていないようね。」
「箱?70年経った今となっては、私には何も残っていない。共に戦った戦友も。そしてダンスの約束も。だから、私はここにいるのかもしれない。」
スティーブは自嘲気味につぶやいた。少し間をおいてほむらが口を開く。
「私も似たようなものかもしれないわね。」

「たった一つの願いを叶えるためにずっと戦いを繰り返している。何度も、何度も。最強の魔女、ワルプルギスの夜を倒すこと。これが私の願い。そのために私はあまたの時間軸を渡り歩いてきた。スティーブの知り合いにこういう人はいるかしら?」

「70年前に私はアドルフ・ヒトラーを倒した。200回くらいかな?国債を集めるショーのステージ上で。」

 リアクションの薄かったほむらにたじろぐスティーブ。ほむらは魔法少女の姿になり、白銀に光る小盾をスティーブに見せる。美しいレリーフと、中に機械的なギミックが散見される。
「これは時計なのかい?」
「ええ、時間を巻き戻す時計でもあるわ。この力で私は過去に戻って戦いをやり直す。」
 スティーブも背中に背負った盾…ヴィブラニウムシールドを取り出してほむらに見せる。巨大だが、ヴィブラニウム製の盾は意外に軽量である。スティーブは盾としてだけでなく、これをフリスビーに見立てて投擲することもある。スティーブ同様、北極海から引き上げられた代物であるが、不思議な事に金属部分には一片の曇りはなく綺麗に磨き上げられている。
「ヴィブラニウムは偶然出来た産物で今でも再構成ができないそうだ。」
「最後の超人ソルジャーにに量産できない金属盾。どちらもオンリーワンということね。」


「ところで、一つだけ質問していいかな?」

「ええ。何かしら?」

「君も、盾は投げて使ったりするのかい?」

ほむらは少し考えると、首を斜めにかしげてこう答えた。
「貴方も時間を止める魔法を使えるようね。」

 
 ほどなくしてヘリキャリアのブリッジに集められたアベンジャーズ。ニックの説明では、ドイツのシュトゥッツバルトにてロキが現れ、市民の安全の確保と「彼」の捕獲、そして「奪われたもの」の回収が最優先事項としてメンバーに伝えられた。アベンジャーズは出撃準備を整え、ヘリキャリアから艦載機に分乗、作戦ポイントへむかう。
「ほむら。初めての作戦になるが、準備はいいか?」
「ええ、大丈夫よ。武器や弾薬が十分にあるのは心強いわね。」
「戦闘の経験は?」
「人間との戦闘はほとんどないわ。相手が魔女なら数え切れないほど。」
「ああ、助かる。それと、個人的な質問なんだが…。」
「何かしら?」
 キャプテン・アメリカは自分を指差した。
「ほむらは私のコスチュームについてどう思う?今時、全身タイツはダサイかな?」

「そのコスチュームは70年前の貴方を想って作られたのでしょう?変わらないほうがいいこともあるわ。昔の貴方を覚えてくれている人がいるということは、とても幸せな事よ。」
 キャプテンとほむらは地上に降り立つ。スティーブ…いや、超人兵士の生みの親であるアースキン博士の故郷でもあるドイツ。この始まりの地で魔法少女同士の戦いの火蓋が切って落とされる。




エピソード4:「聖女の祈り」

 キュゥべえと契約し、魔法少女になったロキ。しかし、今はS.H.I.E.L.D.の母艦、ヘリキャリア内部にある特殊な檻の中にいる。そして、ロキの見つめる先には黒ずくめの隻眼の男が。

「これは特殊な檻でな、内側のガラスを少しでも傷つけると、ヒトシ君人形のようにまっさかさまに没シュートだ。いくらお前が[神]でも重力には逆らえない。わかるな?」
ニックは鋭い目つきでロキをにらみつける。
「私のためにここまで手の込んだことをするとは、S.H.I.E.L.D.も必死だな。」
「そりゃ、必死にもなる。お前が私たちの研究所をメチャメチャにしたばかりか、研究中のグリーフシードから魔女を目覚めさせてしまった。」
「お友達を放してやったのさ。愛嬌があってかわいいだろ?」
「そいつのおかげで首のない死体がいっぱい出来た。」
「おなかを空かせていたんだな。」
 ニックは眉をひそめながらこう言い放った。
「お前がドイツで見つけた新しい[友達]は安全なところで厳重に管理されている。変な気は起こさないことだ。」
 ロキはニックの言葉に不敵な笑みで答える。
「お友達はじき目覚めるさ。ここには刺激的なご馳走がいっぱい用意されているからな。」
 苦虫を噛み潰したような顔をしたニックはロキに一瞥し、その場を去る。


 
 一方、ブリッジではちょっとした騒動が起こっていた。
「こいつがトニーの言ってた[氷漬けキャプテン]なの?」
「ああ、彼がキャップだ。歳の割には、うごけていただろ?」
「もっとよぼよぼのお爺ちゃんかと思ってたよ。」
 杏子とトニーが自分について話しているのを見て、スティーブは露骨に不機嫌になる。

「トニー、君が来るとは聞いていなかったぞ!」
「文句はニックに言ってくれ。それに私がいないと危なかったんじゃないのか?今檻の中にいるトナカイ野郎(ロキ)にヤられそうになっていたのはどこのドイツなんだ?」
「トニー、オヤジギャグが寒いよ。」
 杏子がツッコミをいれる。

「君が活躍できるのはそのスーツのおかげだろ?それを脱いだら君には何が残るんだ?」
「私がスーツを脱いだなら…ただの博愛主義の大富豪で発明家でリア充でチョイ悪オヤジのトニースタークしか残っていないな〜。」
「…」
 そんな中、ほむらが自動ドアを開ける。
「にぎやかで楽しそうね。」
 杏子はテレパシーでほむらに話しかける。

『おまえ、魔法少女なのか?』
『ここで会うとは思わなかったわ、佐倉杏子。』
『ちょっと待てよ。何であたしの名前を知っているんだよ?』
『ここでは初対面だったわね。私は暁美ほむらよ。よろしく。』
『ここでは…?何なんだこいつ??』

「杏子、あの黒髪の魔法少女とは知り合いなのか?」
「ああ。今知り合った。」
「魔法少女同士、目と目で通じ合えるなんてうらやましいね。」

「改めて自己紹介するわ。私は暁美ほむら。オファーを受けてアベンジャーズに入った魔法少女よ…といっても、契約が切れて今日明日でここを去ることになるけど。」
 ほむらはスティーブにこうつぶやいた。
「外側をどんなに取り繕っても、その内面は簡単に取り繕えないものよ。たとえば…心に大きな傷を負っている…とか。」
2人の様子を見たトニーは皮肉交じりに
「なんだよキャップも隅に置けないな〜。でも、さすがにティーン相手は犯罪じゃないのか?」
「黙れトニー!そんなんじゃない!」

 騒がしいブリッジにもう2人。自動ドアの音とともに、ニックと甲冑をまとった金髪の大男がやってきた。
「待ってくれニック。あいつは…ロキは俺のたった一人の弟なんだ!」
「ソー、兄である君は弟がこの世界でどれだけの人の命を奪ったのか知っているのか?」
「それは…」
「地球…君たちのいうミッドガルトで起こった事件は当事者である私たちで解決する。アスガルド代表の後継者である君なら、判ってくれると信じているが。」
「迷惑をかけた分はアスガルドで必ず裁きをくだす。」
「とにかく、彼はしばらく檻でおとなしくてもらう。いいな。」
「ああ…。」
 ソーはきびすを返し、ブリッジからとびだす。
「彼が、[雷神]マイティソー。アスガルドの王オーディーンの息子にして事件の首謀者ロキの兄。北欧神話は現実の出来事だった…それともそういうシェイクスピア劇かしら?」
 ほむらの言葉に対し「さあな。」と応えるニック。
「でも、あいつの雷は本物だ。なんだよ、想定の400%のダメージって?」
 トニーが口ひげをつかみながらいぶかしげにつぶやく。
「お前がソーにちょっかいを出すからいけないんだ。」
スティーブはトニーを諫める。
 

 ソーとトニーの出会いはある意味最悪であった。今から数時間前、ドイツでロキを拘束して、ヘリキャリアに戻る間、アベンジャーズと魔法少女ほむらは護送中のロキともに、輸送機の中にいた。天候は晴れであったが、急に曇りだし、それどころか雷鳴まで鳴り響いた。するとロキがおびえ始める。
「トナカイ君は雷がお嫌い?」
 皮肉交じりにトニーが話しかける。
「(雷の鳴った)後に来るやつがどうも苦手でね…。」
 ロキがこう応えた矢先、雷鳴は一段と大きく鳴り響き、輸送機の上面に何かがぶつかったような衝撃が走った。
「ちょっと上の様子見てくる」
 ヘルメットを装着したトニーが輸送機の後部ハッチを開けたとたん、金髪の大男が機内に乱入。ロキを連れだし、雷雲の中に消えていった。追いかけるトニー。スティーブもパラシュートを装着し、虚空に身を投げる。
 
 
「結局、ソーはロキを問いただしたかっただけらしいのだが、なんとも強引というか…。」
「チームをまとめるキャプテンの負担は想像以上ね。」
 相変わらず無表情のほむらにあきれるスティーブ。
「それに、あのハンマーだ。みょるにろ…むにょにょだったっけ?」
「ムジョルニアだ。トニー。」
 間髪入れずスティーブが突っ込みを入れる。

「そう、それ!記憶力イイネ!あの四角い鈍器で私のスーツはベコベコだ。お前のシールドは傷一つついていない。何で親父はこいつ(ヴィブラニウム)の作り方を遺しておかなかったんだ??」
「この盾はトニーのお父さん…ハワード・スタークの形見でもあるのか…」
 スティーブは星条旗を模した盾を見ながらつぶやく。


「ニック。これでロキも拘束されて一件落着ということでいいわね。契約どおり、武器を渡してくれるかしら?」
「ああ、いいとも。」
 ニックは分厚い束になったリストをほむらにポンと渡す。
「対人地雷の数が希望した数より少ないわ。」
「これで全部だ。これ以上はどうしようもない。君はミタキハラを地雷原にするつもりか?」
「そう…。これでなんとかしてみるわ。」
 首を斜めにかしげ、ほむらは無表情で答える。
「しかし、これだけの武器をどうやって持ち運ぶ?トレーラー2〜3台ぶんじゃ済まないぞ。」
「全部この中に入るわ。」
 ほむらは左腕の小盾からAT−4(バズーカ)を取り出した。ニックたちの目の前でズラリと並ぶバズーカたち。そしてこれらを再びしまいこんだ。両手を広げて武器がないことをアピールする。

「物流革命だな。」

「それでは、ここで失礼するわ。」
「待ちたまえ。」呼び止めるニック。
「何かしら。私の仕事は終わったはずよ。」
「ミタキハラに戻るにはアシがいるだろう。準備が整うまで待ってくれないか?」
「感謝するわ。」


「ほむら。短い間だったけれどありがとう。感謝する。」
「それには及ばないわ。私の本当の戦場はミタキハラだから。」
「魔女の件だが、もし君が望むなら…」
「その必要はないわ。一人で大丈夫よ。」
 ブリッジのシャッターが閉まる。

「脈ナシか。これ以上追いかけるのは見苦しいぞキャップ?」
 トニーがスティーブにからんでくる。
「黙れトニー!それにミタキハラはお前の支社があるだろう?他人事か?」
「ハイハイ、オッサン同士の言い争いは見苦しいからやめてくんないかな?」
 杏子がやれやれな表情を見せる。
「どこに行く杏子?」
「腹減った。なんか食いモノない?トニー?」
「艦内に食堂がある。君なら好きなところに入って食べられるだろう。」
「タダで?」
「ああ。」
 杏子はシャッターを開け、一目散に食堂へ向かう。


「あ〜食った食った♪」

 杏子は久しぶりの満腹感に酔いしれていた。外国の空母なので当然供される食事の量は多いのだが、杏子の胃袋はそれを凌駕した。フードファイターのごとき怒涛の食べっぷりは、他の乗組員が集まり、ギャラリーが出来るほどであった。

「なんだよ?見せもんじゃねえぞ!」
 満腹になったところでブリッジに戻ろうとする杏子。すると、杏子の心に誰かが語りかけてくる。
『杏子…。』
 聞き覚えのある、やさしく暖かな声。もしや…そんなことはない。しかし、確かめなければならない。そんな衝動に駆られた杏子は声の主を探し、艦内を歩き回る。しばらく歩き回り、杏子は声の主と対面する。
 声の主は檻に閉じ込められていた。聖職者なのか、法衣をまとい、髭を蓄えている。
「お…親父!」
「杏子、会いたかったよ。」
 杏子の父はすでに他界している。しかし、目の前にいるのは紛れもなく父だ。
「ニックフューリーに捕らえられ、ここに閉じ込められてしまった。隣の端末で開錠できるから、助けてくれないか?わが娘よ。」
 杏子はしばらくの間あっけに取られていたが、平静に戻ると不敵な笑いを浮かべる。手のひらから槍が飛び出し、それを「実の父親」に向ける。
「杏子!一体何を?」
「あたしの心を覗き見するなんていい趣味してるね。」
「何を言っているんだ、実の父親に向かって…」
「あんたがロキかい?」
 その瞬間、父親の表情はゆがみ、不敵な笑みを浮かべたロキにモーフィングしていく。
「久しぶりの父との対面、懐かしかっただろ?」
「…ゲス野郎!!」

 ロキは「魔法少女」になる前から幻影の術を使用できた。自分の姿を変えるのは朝飯前。さらに他の魔法少女とソウルジェムの感応能力を使い、杏子の記憶、精神の情報を盗み取ったのだ。
「そういうな。同じ魔法少女同士、仲良くしようじゃないか。」
「何言ってんだ?そもそも男が少女なんて…え??」
 杏子はロキの左中指の爪の紋章と、ソウルジェムが変性した指輪を見て、彼もまさしく魔法少女であることを確信した。ソウルジェム同士の感応はテレパシーとしても機能する。なぜ男なのに魔法少女だと?  困惑する杏子。
「魔法少女という名称はあくまでも便宜的なもの。[適格者]が女性に多かったからに他ならない。当然だ。私は王になるための器…才覚を備えているからな。」
「プッ。自分をそんな風に言うのは敗北フラグじゃね?」
「ん。何だ?旗など持ってないぞ?」
「少なくても、あんたみたいなゲス野郎と馴れ合うつもりはないよ。」
「どっちが下衆だ?定職にも就かず、日々の糧を万引きやかっぱらいで食いつなぐ貴様のほうがよっぽど下衆ではないかな。佐倉杏子?」
「ぐぬっ!」
 杏子は何も言い返せない。
「貴様は悲劇のヒロインを気取るが、そもそもこうなったのは…杏子、貴様の[祈り]が原因ではないのかな?」
「司祭である貴様の父は、教会本部から教えられた教義を捻じ曲げ、独自の解釈で説教を始めた。そのことより彼は本部から破門され、信者も去り、一家は食うにも事欠いた。」
「そして貴様は祈った。[父の話を皆が聞いてくれますように]と!去った信者は再び教会に集まり、一家は救済されたように見えた。」
「ロキ!あたしの心をまた読みやがったな!」
「しかし、その後がダメだったなあ〜。信者は魔法の力で父親の言葉を聞いてくれるだけのただのデク人形だってことに気づいてしまった!魔力で体を動かしている魔法少女のように!!」
「そりゃそうだよなあ。実の娘に一杯食わされていたんだから。魔女だと罵りたくなる気持ちも判る。その後は、酒におぼれ、発狂し、母と幼い妹を道連れに…」
「言うな!」

「お前の祈りが家族を殺した!お前の[聖書]は血で真っ赤だ!!」

 杏子の顔は涙でぐちょぐちょになっていた。


「いい顔だ。実にいい顔だ。」
 ロキはお得意の邪悪な笑顔(ロキさんスマイル)で拍手をする。
「いい顔を見せてくれた褒美に王よりいいことを教えてやろう。ありがたく思え。」
 檻の中の王は不敵な笑みを含ませつつ話を続ける。
「ひとつ。この方舟(ヘリキャリア)は沈む。神代の時代からの定めだ。何ならつれて行ってやってもいいぞ。空とぶ社長との契約は破棄しろ。」
「だれがそんな嘘を信じるかよ!」
「美樹さやかも一緒だ。」
「!!」
「さやかは私の忠実な下僕だ。貴様が出会ったときより数段強くなっているぞ。貴様とて、独りぼっちは寂しいのだろう?」
「ふざけんな!さやかを返せ!」
「ふたつ。貴様らの司令官、ニックフューリーだ。あいつはS.H.I.E.L.D.などという、あたかも専守防衛のような組織の指令だが、裏で大量殺戮兵器を作っているのを知っているか?」
「さっきから嘘ばかり!お前になにがわかるんだ?」
「分かるさ、ニオイをかげば分かる。貴様には分からないのか?」
「ソウルジェムの技術は兵器に転用できる。ニックは魔法少女と接触し、兵器の便宜を図る代わりにソウルジェムの技術を受け取った。」
「なんで魔法少女が武器を使うんだ?」
「さっき隣にいただろ?」
「…暁美ほむら…あいつか??」
「あいつは、魔法でなく実弾兵器で戦うイレギュラーな魔法少女だ。武器を定期的に補充しないといけないほむらはニックに魔法少女の技術を売ったんだ。ミタキハラの縄張りを手に入れるために。」
「でも、ミタキハラはマミがいる。そんなことはさせないはずだ。」
「どうかな?アレだけの兵器があれば、お得意の[ティロ・フィナーレ]ではしのぎきれないかもな。それとも貴様が助太刀してやるか?」
「だれがあんなやつ!」
「そうか、かつての師匠、ティロ・フィナーレは見捨てるか。些細な理由で仲違いしたんだっけな〜ティロ・フィナーレとは。」
「あたしの心を読むな!変態!」
「ソウルジェムは活性化すると微量のガンマ線を放出する。魔法少女が呼吸をするかのように魔法を使えるのはすべてガンマ線によるものだ。身体能力の向上、再生能力、そしてエネルギー波による攻撃。すべてガンマ線に起因している。これを兵器に転用しない理由はないだろう。」
「だれがあんたのウソに騙されるかよ!」
「なら、確かめればいい。」
「えっ?」
「第4研究室。ここに貴様がもとめているものがある。私から奪った[種]もな。」
「[種]って…まさか??」

「グリーフシードだ。」
 一目散に走り出す杏子。それを見てロキは高笑いをあげる。
「愚かな人間どもよ。これで役者はそろった。終焉の舞台がじき目を覚ます。そして、終わらない夜の始まりとなるであろう。」
 杏子は禁断の第4研究室に向かう。そこに待ち受けていたものは、紛れもない「パンドラの箱」だったのである。




エピソード5:「アベンジャーズ アッセンブル」

「なんだよ…これ??」
 幻惑の力でキュゥベえと契約した杏子にとって、研究室の警備や研究員をあざむき、第4研究室に入ることは造作もなかった。そこにはおびただしい数に及ぶ古今東西の魔女に関する文献。そして、数々の武器の試作品。そして、ソウルジェムを模した卵形の宝石の試作品が多数見つかった。おそらく、ほむらのソウルジェムを解析したものだろう。試作品ジェムのほとんどが紫色の輝きを放っていた。
 魔法で眠りこけている研究員を払いのけ、杏子は閲覧中の端末から過去の実験の映像ファイルを確認する。「魔女の可視化実験」「ソウルジェムシステムの兵器への転用実験」など、組織がかなり前からソウルジェムを兵器に応用するべく実験を繰り返していたことがわかる。

 杏子は数々の実験データの中で「ソウルジェム兵開発計画」のアーカイブを発見する。ソウルジェムをリバースエンジニアリングした人造ソウルジェムを人間に埋め込み、魔法少女並みの身体能力を持った兵士を造る計画である。組織ではこれを「21世紀の超人兵士計画」と呼んでいたようだ。杏子は恐る恐る実験映像のデータを開く。

 …あまりにも凄惨な映像に、杏子はさきほど食べたものを戻してしまう。人造ソウルジェムの生み出したものは異形の怪物であった。神の領域に踏み込んでしまった人間たちへの警鐘だというのか。
 そして研究室の最奥。透明な箱にリンゴ大の黒い球体が浮いている。よく見ると、針のように細い足があり、宇宙ゴマのように絶妙なバランスで立っている。間違いない。これがロキの言っていた「種」、巨大なグリーフシードである。杏子が箱に手をかけたとたん、けたたましいサイレンが鳴り響く…。


 
「さあ、どういうことなのか説明してくれよ。ニックのおっさん。」
 ヘリキャリアのブリッジで杏子がニックに詰め寄る。他にスティーブ、トニー、ソー、そしてほむらが一堂に会する。傍らにはソウルジェムの技術を応用した武器や人造ソウルジェム。そして、鈍い光をはなつ巨大な「グリーフシード」が。
「来るべき脅威に対してのわれわれの備えだ。」
 ニックはこう言い放った。

「ニック。私は確かに兵器への転用目的でソウルジェムのテクノロジーを渡したわ。でも、人為的に魔法少女を作り出すことだけはしないと約束したはずよ!」
 普段は冷静なほむらがありえないほどの剣幕でニックに食って掛かる。

 モニターに人工ソウルジェムを移植したラットの実験映像が映し出される。多くの者が目をそむけたが、その中でスティーブだけはかつての宿敵、レッドスカルにその姿を重ねていた。
「ほむら。君にはさんざん説明したはずだ。以前われわれは外宇宙からの脅威にいいようにしてやられた。対抗するためには力が要る。そのために手段は選ばない。」
「しかし、このことでこの地球…ミッドガルトが脅威にたりえる力を持ってしまった。他の世界から介入される口実を作ってしまったんだぞ!」
 今度はソーがニックに食って掛かる。
「介入も何も、元はといえば君たちアスガルドの地球への干渉が原因だろう。それとも、戦う意思がないとアピールすれば争いを回避できるとでも?」
「仮にニックの言うことが正しいとして、今回の兵器開発はあまりにも情報がクローズすぎる。隠し事が多い状態で自分を信じろというのは誠実さに欠けるのではないかな?」
「トニー!私たちはチームだ。そんなこと言っている場合か!」
「これがチーム?冗談だろ。どんなキャプテンジョークだよ?」
「君は自分が博愛主義者だというが、誰かのために事を成したことがあるか?戦友のために鉄条網に身を投げ出す覚悟はあるのか?」
「私なら鉄条網を切るね。」
「スーツを着ろ。口で言っても分からないなら体で教えてやる。」
「いくら年長者でも容赦しないぞ。もう一回氷漬けにしてやる。」
 その時、ドクンという鼓動のようなものをほむらは感じた。今までに味わったことのあるいやな感覚。でも何かが思い出せない。
「暁美ほむら、よくよく考えてみればアンタもかなり怪しいよね〜。」
 今度は杏子がほむらに視線を向ける。
「ニックのオッサンにソウルジェムの技術を渡す。そして戦争が起こせそうなくらいの量の重火器を手に入れる。」
「アンタの本当の目的は何だい?」
「言ったはずよ。ワルプルギスの夜を倒すこと、それだけ。」
「マミを追い出してミタキハラの縄張りを手に入れるためだろ?」
「巴マミはまだ生きているのね。この時間軸では。魔女を倒せればすぐにでも街を出て行く。後は好きにすればいい。」
「そんなこと信じられるか!」
「佐倉杏子。貴方はどれだけ愚かなの?檻の中のアイツに騙されているのよ。」
「変身しろ!ほむら!てめえみたいにスカして何でも分かっているような顔をしているやつが一番ムカつくんだよ!」

「スーツを着ろ!」
「変身しろ!」
「スーツ!」
「変身!」
「…」
「…」

 檻の中の王が目を見開く。そしてこう叫ぶ。
「開幕だ!ワルプルギス・ナハト!(ワルプルギスの夜)」
 巨大なグリーフシードが崩壊し、衝撃波が走る。それと共に真上に莫大なエネルギーがほとばしり、ブリッジの天井を付近にいた10数名のクルーと共に削り取っていく。はるか上空には巨大な歯車が回転し、ふたつの突起のあるフードをかぶった女性が逆さになったような外観の魔女が顕現した。
「そんな…ここで…。」

 ほむらはひざを突きうなだれる。忘れるはずがない。あまたの時間軸でおびただしい被害をもたらした災厄。最恐の魔女。そして、ほむらの戦う目的。ワルプルギスの夜は今ここに顕れた。アベンジャーズの憎しみの思念がグリーフシードに作用し、ワルプルギスの夜を解き放ってしまった。
「ほむら。あたしはアンタのことを全部信用したわけじゃねえ。でも、何故あれだけの武器をほしがった理由がはっきりした。当面は共同戦線といかないか?」
 杏子が頭をかきながらバツが悪そうに話しかける。
「賢明ね。」
 ほむらも立ち上がり、いつものように首をかしげて答える。ソウルジェムがきらめき、2人は魔法少女の姿になる。その瞬間、ヘリキャリアに大きな衝撃が走り、艦全体が大きく傾く。
「何があった!マリア・ヒル!」
「第1、第3ローターが稼動を停止。第1ローターは大破、第3ローターは破片を吸って回転を停止しました。」
「スティーブ、トニー、なんとしても第3ローターを復旧しろ!でなければこの艦は落ちるぞ!」

「スーツを着ろ、トニー。」
「ああ、そうだな。」
 スティーブとトニーはスーツの格納庫に向けて走り去る。

「ソー!お前は[檻]に行ってロキを奪還されないように守れ!」
「ああ。」
 ソーは檻に向けて走り去る。ニックは懐からバイザーのようなものを取り出し、それを装着した状態で魔女のいる空を眺める。何もない空に魔女が浮かび上がる。
「歯車だな。」
「ニック。それで普通の人間のあなたにも魔女が見えるの?」
「君のおかげだ。」
「私はどうすればいいかしら?」
「君の戦いをすればいい。」
「わかったわ。」

 ほむらは左腕に装着された小盾をかざす。機械的ギミックが展開し時間が停止する。
次の瞬間、ほむらの目の前におびただしいほどの無反動砲がそびえ立つ。再び時間停止。今度は無反動砲から射出された飛翔体が魔女に向かって飛んでいく。全弾命中。魔女は笑い声とも悲鳴ともつかぬ奇声をあげる。

「時間停止の魔法…か。」
 杏子は艦載機でキャリアに侵入したS.H.I.E.L.D.の反乱分子を、クルーと一緒に迎え撃つ。かつての仲間であった反乱分子をためらわずヘッドショットで仕留めるニックの副官、マリア・ヒルに舌を巻きつつも、一人ずつ的確に無力化していく。
「アンタって、思ったより実戦向きなんだね。」
「わがままな上官を持つと嫌でも強くなるのよ。」

 魔女によって見晴らしの良くなった甲板に新手の一団を確認。しかし、この一団は他と明らかに雰囲気や動きが違う。特に先頭を務める黒い戦闘服の兵士は刀のようなもので戦闘をこなすが、鮮やかな太刀筋で敵を切り伏せる。この太刀筋に杏子は既視感を覚えた。
『美樹さやかは私の忠実な下僕だ。』

 檻でのロキの言葉が思い出される。黒の兵士は間違いなく美樹さやかだ。杏子があっけに取られている間に爆発の際に出来た甲板の亀裂へと黒の一団は吸い込まれていく。
「ロキの奪還部隊が甲板から進入した。後を追うから援護を頼むよ!」
 後を追い、杏子も亀裂に飛び込んでいく。

「ロキ!なぜだ。なぜこんなことをする!」

 檻から出ようとするロキをソーが制止する。
「兄上。私はかつてお前の父、オーディーンと戦ったヨーツンヘイムのフロストジャイアント(氷の巨人)だ。実の弟ではない。」
「それでもお前は俺の弟だ。血のつながりなど関係ない。」
「ならば、なぜ私はアスガルドの王にはなれなかった?実の息子である兄上には養子の私はどうあっても敵わない。そういうことなのか?」
「だからといって、俺へのあてつけのためにミッドガルトを滅ぼすというのか!」
「滅ぼすのではない。正しい方向へ導くのだ。」

「アスガルドへ帰ろう!」

 ロキは苦笑いを浮かべ首を横に振る。
「ロキ〜!」
 ソーは、檻から出ようとするロキにつかみかかる。しかし、つかみかかろうとしたロキは霞と消え、ソーは檻に取り残される。

「!!」
「兄上もツメが甘いようで…。これで何度目だ?」
 檻の制御装置に不敵な笑みを浮かべたロキが現れる。ソーはムジョルニアでガラス製の檻を壊そうとするがヒビが入るだけで壊せない。
「われわれはミッドガルトでは神と称されるが、重力には勝てるかな?」
 檻の下部ハッチは開かれ、雲海が覗く。兄の絶叫と共に檻は雲の向こうに消えた。
「さよなら兄上。よい旅を。」


「あたしも人の事いえないけどさ、もう少し素直になったほうがいいんじゃない?たった一人の兄貴なんだろ?」

 チョコレートがけのプレッツェル「ロッキー」を口にくわえた杏子が不敵な笑みを浮かべて現れる。
「覗き趣味とは感心しないな。」
「アンタには言われたくねえ!この前はよくもやってくれたね。乙女の涙のお代は高くつくよ。」
 ロキに向かって、槍の穂先を突きつける杏子であったが、突如、黒い疾風がすばやい斬撃を叩き込む。杏子はバランスを崩し、その場に倒れこむ。立ちはだかる黒い戦闘服の兵士は帽子と服を脱ぎ捨てる。
「さやか?」
 魔法少女の姿のさやかは杏子に向けて剣を向ける。言葉はなく、死んだ魚のような目のような青い瞳には生気はない。

「残念だったなあ、お前の相手はさやかちゃんでした〜。」

 邪悪な笑みを浮かべたロキは指をパチンと鳴らす。
「美樹さやかよ。目の前の女を殺せ!」

 
 一方、ほむらは「自分の戦い方」でワルプルギスの夜と戦っていた。魔女を可視化する試作バイザーのおかげでニックたちの援護射撃があるものの、ほむらたちが不利であることには変わりない。しかし、ミタキハラにワルプルギスが到着する前に沈黙させられれば、まどかが魔法少女にならなくても済む。そう思うと引き金を引く指にも力が入ろうというものである。
 しかし、既にニックから受領した兵器の半分を消費してしまった今、ほむらはどう戦うかを思案していた。迫撃砲や指向性の対人地雷は設置に時間がかかりすぎるため、時間を一時的に停止したとしても使用は難しい。ミタキハラの時と違い、距離が近いため、味方への被害も考慮しないといけない。ふと甲板を見ると反乱分子が乗り込んだ垂直離着陸が可能の輸送機が何機か不時着していることに気がついた。

「ほむら、どこへ行く。」
「武器の現地調達。全品100%オフよ。」
 待機中の輸送機に近づいたほむらは時間を停止、警戒中の敵兵を無力化。除装したあと、輸送機の外にたたき出す。携帯可能な火器は盾にしまう。輸送機をジャックしたほむらは機体に備え付けられたミニガンをワルプルギスに向け乱射する。弾が切れた輸送機は体当たりををかけ、撃墜させる。もちろんほむらはその前に脱出。
 ほむらが2隻目の輸送機を[お買い物]したあたりで、輸送機に向かってエネルギー弾が浴びせられる。初弾は回避したが次は左のローターに被弾。不時着を余儀なくさせられた。脱出したほむらの視線にはロキが。

「トナカイが檻から逃げ出したわ。」
 ほむらは敵から奪ったカービン銃をばら撒くが、ロキの展開した障壁に阻まれ、弾丸は跳ね返るか弾道をそらされてしまう。ロキも杖からのエネルギー波で反撃。ほむらの手前に着弾し、足を止める。
 すると、ロキはワルプルギスの夜の懐深く飛び込み。逆さに吊り下げられた女性の胸元に杖をかざす。かざしたところから毛細管現象のようにワルプルギスの夜に光の筋がはしり、魔女は動きを止めた。
「ご苦労であった。アベンジャーズ、および魔法少女の諸君。よくぞワルプルギスの夜を解き放ってくれた。新たな下僕となった魔女の力、とくと味わうがいい。」
 ワルプルギスの夜の歯車から放射線状に無数のピンクの線状の光がほとばしる。見ると、その光の一つ一つが小型の魔女…使い魔であった。使い魔は高速で間合いをつめ、嬌声をあげながら、ほむらたちに襲い掛かる。一つ一つは小さく、攻撃が単調であるが、幾百、幾千もの光をかわすことは容易ではない。魔女を目視できない普通の人間ならなおさらである。ほむらも最初は手持ちの火器で応戦したが、さすがに捌ききれず使い魔の体当たりをもろに食らって空中に打ち上げられる。

「ほむら!」
 空中に放たれた銀色の円盤がほむらの周辺にいる使い魔たちを次々と撃ち落としていく。

「遅れてすまない。」

 空中でヴィブラニウムシールドをキャッチしたスティーブは続けざまに使い魔に向けシールドを投げつける。彼もニック同様、魔女を可視化するバイザーをつけていた。
 落下したほむらは駆けつけた鋼鉄の社長が受け止めた。

「見ろよ、スティーブのバイザー、ダサイったらありゃしない。いかにも目からビームが出そうだ。」
「まだスティーブと言い争っているの?」
「一時休戦だ。その前にやることがある。」
 トニーはヘッドディスプレイの表示をガンマレイモードに変更。何も映っていなかったモニターに使い魔のシルエットが浮かび上がる。ロックオンされた使い魔にリパルサーレイを放ち、周辺の使い魔は瞬時に沈黙した。
「魔女、使い魔の認識率、99.4%です。」
「上出来だ、ジャーヴィス。」

 トニーはジャーヴィスと名づけたAIにワルプルギスの夜の弱点を探させると、ほむらに、こう語りかけた。
「私たちに魔女を見せる眼を授けてくれた黒い瞳の女神に、この戦いの勝利を約束するよ。」
 ほむらは胸にこみ上げる悪寒に身震いしつつも、そんなトニーを適当にやり過ごす。
 
「ククッ。まあ、こんなものだろう。」
 ワルプルギスの夜の第一波を乗り切ったアベンジャーズにロキが嘲笑を浴びせる。
「なにがおかしい?」
 ニックがロキをにらみつけるが、ロキ本人は涼しい顔である。

「これで我が野望が達成された。卑劣な策略にてアスガルドを追われた王は、ミッドガルトに移り、かつて滅んだ魔法国家を復興する。その暁には私は王でなく、皇帝としてこのミッドガルトに君臨するであろう。」
 そう言い捨てるとロキは魔女とともに瞬時にて姿を消す。キャリア内部で戦っていた部隊も、ロキの言葉に呼応して引き上げを開始する。もちろん、美樹さやかも。

「おい待て!あのペテン師のところにいくんじゃねえ!」

 杏子の目の前からさやかは消えた。脱ぎ捨てられた黒の戦闘服を残して。
「さやか〜!!」
「ロキは魔法国家の皇帝になると言っていたが…心当たりはあるか?」
 ニックはほむらに問いかける。
「魔法国家…もしかして!」
 ほむらはニックにミタキハラに伝わる伝説を語り始めた…。



 ミタキハラシティ。日本のグンマーステイツにあるこの都市は、もともとは見滝原市といい、どこにでもあるような地方都市であったが、10年前にトウキョウがスーパーセルによって壊滅的な被害を受けたことを教訓として国策として進められた「首都機能移転計画」によって、各種インフラが整えられ飛躍的な発展をとげた。
 しかし、この「グンマー」という名称は、少なく見積もっても1万年以上にさかのぼる古代帝国の名称として使われていた。ミタキハラは古代帝国の首都であったといういわゆる「グンマー伝説」である。
 
「それはきっとグンマー帝国のことね。」

 ミタキハラに到着したアベンジャーズは、指定場所である某ファミレスにて魔法少女、巴マミと接触した。彼女は1万年以上前に隆盛を誇った魔法国家について話をはじめた。絶大な魔力を持つ「皇帝」が治める国家はその魔力によって現代の生活水準に劣らないほどの文明を築いていたという。
「でも、なぜグンマー帝国は歴史に出てこないんだ?オカルト雑誌ならよく見かけるけど。」
「それは…遺構がほとんど見つからないためよ。」
 ほむらの説明ではあくまでも憶測としてだが、飽和状態になった帝国はその機能を丸ごと移転…エクソダスをおこなったという仮説である。たしかに遺構自体がほかの場所に行ってしまえばその存在を証明することは難しい。
「そんなことよりも、ロキだ。なんであいつが異世界のグンマー帝国に詳しい?」
 ぼやくトニーに背後から豪胆な声が響く。

「ロキは…皇帝になりたかったんだろう。王[King]を超える皇帝[Emperor]に…。」
「ソー!生きていたのか?檻と一緒に没シュートと聞いたぞ!」
 キャップの驚きに雷神はこう答えた。
「俺とムジョルニアがあれば重力も敵じゃない。伊達に神様やってないぜ。」

「話をまとめるわ、マイティソー。つまりあなたの弟さんは自分がアスガルドの王に選ばれなかったことを逆恨みして、キュゥべえと契約して魔法少女になった。ドイツでワルプルギスの夜のグリーフシードを強奪。わざとつかまってアベンジャーズが仲違いするようにしむけ、そのエネルギーをつかって魔女を孵化させた。それを支配の力で操ってグンマー帝国を再興。王を超える皇帝になろうという魂胆なのね」

 ほむらの的確なまとめにソーは頭を抱えるしかなかった。

「とんだ中学生日記だよね。」
 杏子の一言でファミレスは笑いの渦に包まれる。直後に眼鏡をかけた科学者風の男とピンクのツインテールの中学生が顔を出す。
「まどか!」
「ほむらちゃんおかえり。ミタキハラに戻ってきたんだね。今ミタキハラは…トナカイみたいなのにみんなが操られて大変なことになっているんだよ。」
 まどかは真剣なまなざしでほむらに答える。
「バナー博士。会えてうれしいよ。いやさ、君ほど話の合う人間がいなくてさ…。」
 トニーは満面の笑顔だ。
「私もさ。しかもそのトナカイ君が来てからマスメディアや情報関係のながれがパッタり止まった。これもそいつのせいか?」
「違いない。最近のトナカイは知恵が回るな。」
「情報を統制しようとする奴はいつの時代も悪と決まっている。やましいことがあるからな。」
「まどか君。それでトナカイ…ロキはどこに?」
「グンマー県庁だよ。一番高い建物!あとね。本来結界を張って出てこないはずの魔女たちがミタキハラを我が物顔に歩き回っているんだよ。」
「最強の魔女が現れた影響か?隠れる必要がなくなったのは探す手間が省ける。」
「みんないけるか?」
 隻眼の男の声にアベンジャーズと魔法少女が呼応する。


「ミタキハラにはうちの支社がある。こんなことでビジネスチャンスを失いたくない。」
「今度こそさやかをぶんなぐってでも連れて帰るよ。」
「不肖の弟が…すまない。」
「OK!後輩や魔法少女候補の鹿目さんにかっこわるいところ、見せられないものね。」
「もう一人の私はロキを許せそうにないよ。」
「ほむらちゃん…」
「こんなもののためにミタキハラを終わらせない。」

「さあ行こう、グンマー県庁へ。アベンジャーズ アッセンブル!(アベンジャーズ、集結せよ!)」
「あべんじゃーず?」
 聞きなれない言葉が出てきて、まどかが首をかしげる。
「私達のチームの掛け声だ。まあ、その…合言葉かな?」
 キャプテンアメリカがアベンジャーズについて説明する。

「うん、わかった。合言葉、大事だよね〜。元気出るよね。カワバンガ!とか。」
「…」
 しばし沈黙。
「流石NINJAの国。捻りが利いてるね。そうだ、これが終わったらみんなでピザでも食べよう。この前いい店を見つけたんだよ。」
 なぜ忍者でピザなのか?トニーの言葉で、頭に疑問符だらけのまどか。

「アベンジャーズ アッセンブル!」
 アベンジャーズと魔法少女は暗雲立ち込めるグンマー県庁に向かう。日本の一都市を舞台とした壮絶な戦いが今始まろうとしていた…。
 
 
 
[この続きは12月9日のまどか☆マギカVSアベンジャーズのゲームで明らかになる。
みんな市川の会場でアベンジャーズたちの活躍に期待しよう。アッセンブル!!]



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